蓮華童子の日記

真言秘密行法の修法@自坊を中心にアップして参ります。

風林火山 ~Gackt編~

唐突ですが、今日は大河ドラマ風林火山』についてです。このドラマの中で、二ヶ所ほど目に留まった箇所があります。尤も、Gackt扮する『長尾景虎』のシーンの中に、それはあります。

まず、景虎毘沙門天王を前にして、護摩を修行するシーンが出てきます。毎回、ついつい注意して見てしまうのですが、指導をされたプロがおられたようです。我がことのようにホッとしています(笑)。唱える真言それ自体も『フムフム…』です。とりわけ護摩壇に座してする所作の箇所は、素人のそれではありません。感心して見ています。

想像ですが、最近は護摩供については、ドラマであってもギリギリ一杯のところで、俳優さんにきちんと作法してもらう演出にしているようです。私の師僧も、ずっと以前に、田村高廣さんの演技指導をしたことがあります。散念誦の作法だったような記憶です。ともあれ、景虎護摩供のワンシーンを拝見して、『指導された先生は、きっと苦労されたのだな』と…。

それがたとえ演技のそれであっても、『秘密護摩供』の一部が露出するからには、最低限の処置がないと、『ろくなことがない』と思っています。あまり言ってはいけない箇所なので、とにかく意味深…デス(汗)が、ご参考までに言うと、あのシーンではテレビ画面に向かって合掌し、毘沙門天王に加護を祈願されて全然構いません(⇒これはホント)。そういうショットにしてあるところに、指導された先生のご苦労を感じます(感涙)…。

それから、これは多分この先紹介されるのかもしれません。景虎真言宗の僧籍を得るに当たって、その師僧となる高野山無量光院/清胤(せいいん)法印のことです。この大徳が伝法灌頂の導師となってからは、あの有名な僧帽の姿が、『謙信』という法名と共に歴史上に登場してきます。

実は、この清胤大徳を調べて驚いたのですが、印融法印の正嫡/覚融法印(高野山金剛峰寺第187代検校)の正嫡であったとのことです。印融法印の法孫ということなのですが、何のことか分からないと思いますので、少し説明を…。

この印融法印という大徳が、この場合重要です。この方は、今ある真言宗の表白文『慎み敬って…』に始まり、『乃至法界平等利益…』で終わる形式の創始者です。今もなお、諸尊法の表白を作文する人は、必ず印融法印の表白文を参照するくらいで、真言教学を紐解く場合、後進が必ず照会する方のお一人なのです。

印融法印は15世紀から16世紀初頭/室町後期から戦国時代初頭にかけて、南関東を中心に活動した学僧として、真言宗議の決着書となる『杣保隠遁鈔(せんぼいんとんしょう)』を始め、『両部曼荼羅私紗(りょうぶまんだらししょう)』など、膨大な真言事教二相の著作を遺しました。

この印融法印が南関東を拠点にして布教された時代、その有縁のお寺が集まる一帯に、師僧のお寺(=私めの修行道場)があります。
前から、謙信公が毘沙門天王を拝む行者であり、そのカリスマ性には(特に『天と地と』の映画を観てから)、理由はよく分からないものの、ココロ惹かれるものがあったので、一体これは何だろうなと感じていたことがあります。

今回、謙信公が、印融法印の、それも、その法孫の弟子となっておられたことを知り、符号する事例のいくつかに気づいて、得心するものがありました。例えば、印融法印が三宝院流の伝授を(師僧の近所のお寺で)受けておられることや、実家のある金沢文庫近在の某寺にて講伝されていたりとか…。『法縁』という一言になってしまうのですが、それは実際に修行してみて、自分は現世のみの人生ではないことを自覚し…(後略)。

12月までの放送の中で、長尾景虎が『高野山に隠遁する!』と宣言する場所があったら、高野山無量光院/清胤大徳を訪ねるシーンの登場を意味する筈です。普通に見ている方は、『あっ、偉いお坊さん…』で大方済ませてしまうところでしょうが、私にとっては、そういう訳で、かなり特別な意味があり、今から楽しみにしています。

<補足>
長尾景虎が拝んでいた護摩祈祷は、本当のところはたぶんに修験道的なものだったと想像します。放送では取り上げられていませんが、上杉家には『飯綱権現の前立て兜』(上杉神社蔵)があり、景虎毘沙門天と同時に、飯綱信仰をしていたのです。越後には八海山を本拠とする修験道があるのですが、時勢に即応する祈願をする代わりに、景虎の庇護を受けた修験者がいて、その関係もあって、飯綱信仰に導かれたのではないか、そう考えています。

この飯綱権現こそ、関東甲信越に居を構える修験者の護法神で、私事ながら、師僧の寺の先々代と先代は特に尊崇していました(それもあり、自坊にてお祀りしている)。

当時は戦勝を祈る神霊として、飯綱権現/明神を知らない武将はいなかったと思いますが、なにぶん基本が強烈なご神霊ですので、祈願作法の演出などは、放送で取り上げられることはない(否、出来ない)と思います。